よく子供問題の討論番組などで、「親や先生は俺達のことをちっとも解ってくれない」という若者の意見を聞きます。
親も、「子供の考えていることが理解できない」とか「この苦しみを経験していない人が話す資格は無い」などです。
自分自身のことや、例えば同級生のことも理解できないし、理解しきれないのに、まして世代や経験、環境の違う相手のことを理解するなんて、はじめから絶対に無理なのです。
そうです。本当に相手の事を心から理解する事は、どんな間柄にせよ無理なのです。
人間関係で悩んだり、問題が起きた時、相手に気持ちを理解させよう、しようという側面から入るのが、そもそも無理があるのです。
では理解し合うという事とは出来ないのでしょうか?
実際には分かったつもりになっているとか、妥協しているとか、フリをしているといった事になりがちです。
このままだと永遠に孤立です。本当に相手のことを、相手の気持ちになって考えることは無理なのでしょうか? いいえ無理ではありません。
理解し合うというのは愛するという事と、とてもよく似ています。
妥協でも、持ちつ持たれつでも無く、その相手の存在を認めるという事です。
相手の言葉に素直な気持ちで耳を傾け、また自分の気持ちを飾らないで話す事です。そこに世間体や体裁、立場、思惑、思想、損得、恐れ、経験といったものを挟み込むから、なかなか見えてこないだけなのです。
ただ何度も書きますが、全て心の奥底まで理解し合う事は残念ながら出来ません。不可能です。
人間関係に関する本や、SNSを見ると、後々の事を考えてか、言いたい事を言う前に「こうしなさい」「こんな風に話して」「まず自分を知ろう」のようなことばかりが、目につきますが、不思議でなりません。
・相手のいう事を聞く
・言葉遣いに気を付ける
・言いたいことを素直に言う
たったそれだけです。
「それが出来ないから、苦労しているんだ」と聞こえてきそうですが、誰かのパターンを教えられても、真似しても、理解し合う事なんて出来ません。
時代、民族、国が違えば、おのずとアプローチも変わります。
日本人同士だから、こうした方が良いなんて考え方は捨てましょう。
人真似なんてやめましょう。
言いたい事を、聞きたい事を、ちゃんと伝える。相手の話を聞く。
間違っていると思うなら、冷静に意見を言う。
それが出来なければ黙る。
それだけです。
黙る事は、一旦その場から離れ、落ち着かせて再度、考える事が出来るからです。
その時に大切なのは、相手の言動や態度を蒸し返し、考える事ではありません。
自分自身の心の動きを離れた所から見る。
すなわち、くやしさや怒りの感情が渦巻いているとしたなら、その渦巻いている感情を覗くのです。
よく怒る前に10数えてからといわれますが、「私は、今怒っている」「イライラしている」「落ち込んでいる」という風に、もう一人の自分が見ているようにする事です。
「反省しなさい」「譲歩しなさい」と自分を変えるというアプローチとは全然違います。
難しいと思うかもしれませんが、誰にでも出来る事です。
そうやってリセットした後に出てくる言葉や感情は、きっと違ったものになるでしょう。
相手の事ではなく、自身と向き合う機会を作るのです。
それが自分をコントロールする事に繋がり結果、相手への理解や心の動きが読めるようになっていきます。
もし理解し合えず離れて行ったとしても、
それは、
また違う別の人との出会い為の、神様のいたずら?
そうチェスのコマを動かされたようなものです。
人間関係は難しく、時に悩みの種になってしまいます。それでも私達は理解し合える人を探しています。
映画『キャスト・アウェイ』(Cast Away)の中で、無人島でたった一人になってしまった主人公のチャック・ノーランド(トム・ハンクス)が、ウイルソン製のバレーボールを擬人化させて「ウイルソン」と名付け、話しかけるように、一人では生きていけない人間。
言葉や手紙やメール等のコミュニケーションの手段が出来る生物として生まれてきているのです。
そしてその時、先代の知恵、自らの経験が役に立つのです。
だからこそ、繁栄をなしえてきたのです。
刻々と気持ちは変化していきます。
昨日とまったく同じ気持ちの人なんて一人もいません。
心は流動するのが当たり前なのです。ですから軌道修正がその都度必要になるかもしれません。
時間が経てば伝え直さないといけないのです。
「解り合えたから大丈夫」では無いのです。
「解っているつもり、解っていてくれている」は傲(おご)りでしかありません。
自分自身の中でいくら思っていても、伝えなければ決して伝わりません。
お互いに心から理解い合う事が出来るか?
それは、たぶん無理でしょう。
何度も書いていますが、心は流動し、自身すら理解出来ない行動をするものだからです。
でも、あきらめるのは早すぎます。
心地よい関係を築くことは出来るのです。
それは、相手を何とか理解しようとする事をやめた時です。
そこには見返りや期待、私物化という余計な感情が、入り込んでいないからです。
もし今、あなたの傍にそのような人がいるのなら、出会えたなら、先延ばしせずに、どうか大切にしてください。
ちなみに
1987年公開のアメリカのコメディ・ロードムービー『大災難P.T.A.』という映画。
タイトルのP.T.A. Planes(飛行機)、Trains(列車)、Automobiles(自動車)で巻き起こる災難を、主人公二人が、ぶつかり合いながらも、目的地に着くというコメディーですが、とても心暖かくなる映画です。
相手を理解しながら、生きている事の楽しさを味わえる作品ですので、機会があれば観て下さいね。
また映画のラストに流れる曲が、とても映画のシーンを盛り上げてくれています。「Everytime You Go Away」という曲で、映画の中では女性が歌っていますが、もともとはダリル・ホール(Daryl Hall)&ジョン・オーツ(John Oates)の曲で、ポール・ヤング(Paul Young)がカバーしてヒットしました。
その他にもジョージ・ベンソン(George Benson)&アル・ジャロウ(Al Jarreau)やT-BOLAN、エリック・ベネイ(Eric Benét)といった一流ミュージシャンもカバーしています。
何年も前の曲ですが、今聞いてもいい曲ですよ。
もう一つ
2011年公開のフランス映画、『最強のふたり』(Intouchables)体が不自由な富豪と、その介護人となった貧困層の移民の若者との交流を、実話をもとに作られた映画で、コミカルなのに心動かされるドラマです。
アメリカでもリメイクされ『最強のふたり』(THE UPSIDE)」という題名でヒットしました。
劇中に出てくるオペラの曲が、作品を盛り上げてくれます。個人的にはフランス版が好きですが…!
どちらも、人間関係に疲れた方にはおすすめの映画です。