私が、この仕事についたのは、職を失い、ハローワーク(注1)に通い、履歴書を何社に送ってもダメ。
そんなある日、ハローワークで検索していたら、
「派遣・正社員登用あり・誰でも出来る、簡単な廃棄物の仕分け」と。
仕事が見つからず、ダメもとで電話し面接。すぐ採用でした。
朝6時前に事務所に集合。グループごとに車で派遣先へ。
8時から18時まで働き、事務所に着くのは、19時半から20時。
初日、何も解らず、教えてくれるはずの、同じ派遣の同僚から、
「とっとと帰れよ」
「このバカが!」
罵声と馬鹿扱い。
4日ほど我慢して派遣会社にその事を話すと、
敷地内の別にあるコンベアの仕分けへと、移動。
流れてくる、廃棄物を種類ごとに分ける仕事でした。
10時、12時、15時と休憩があるのですが、立ちっぱなしの上、常に手を動かしているので、毎日クタクタになりました。
産業廃棄物(産廃)とは、家庭から出るゴミではなく、
建築や解体等から出たゴミや、企業からの処分品など、
法律に基づいての処理をしなくてはいけないゴミの事で、
中間処理(ゴミを種類事に分ける)を経て、種類ごとに最終処分場へと送られ、
処理されるのゴミの事です。
コンベアは、屋根があるとはいえ、夏は40度、冬は指がしびれるくらい寒く、何人もすぐ辞めては、補充の繰り返しでした。
7、8人体制ひどい時には5人そんな中で社員はたったの3人 あとは派遣だのみでした。
配置位置で 運動量はかなり違っていて、私が担当したのは、木片・非鉄・プラステックなどの仕分けで、ひと際忙しい場所。
初めて作業する派遣の人は「目が回る」「気持ち悪い」「ついていけない」と、環境の悪さも相まって、大抵半日か一日で辞めていくのです。
毎日、コンベアがある2階へ、21段の階段を登ったり、降りたり。
勿論、掃除も毎回休憩前と最後にありました。
コンベアに流れてくるゴミは、「下ゴミ」と言われ、解体現場から最後に出る、土混じりのゴミの事で、ユンボという大きなシャベルがついた重機で、すくい、コンベアに流します。
最初に大きな回転する円筒形のカゴで、土や小さな金属も含めふるい分けされる仕組みになっています。
これが曲者で、埃が舞わないように、湿った状態で流す為、カゴに泥と化した土が、こびりつくのです。
終業の頃には、乾いて硬くなり、これを取り除くのが、とにかく大変なのです。
特に夏は湿気と暑さで、作業は5分ほどしか、身体がもたない過酷なものでした。
私達は、派遣と呼ばれ、社員と仲良くならない限り、名前で呼ばれる事はありません。
それは、人の入れ替わりの激しい事も起因しています。
私が所属していた派遣会社は、人手不足の為、常に募集をかけて、派遣先の要求する人数を、経験の有無なしに送り込むのです。
応募してくる人達は、履歴書も無しで、即採用。
ほとんどが高齢で、四、五十代が入れば、「若い奴が入った」てな具合でした。
とにかく変わった人が多くいて、日銭で暮らしている人や、独り身が多く、持病や病気を抱えている人もいました。
健康保険無しの人。
住む家も無い人。
腕や背中に絵が入った昔ヤンチャだった人。
黄疸なのか、目が黄色くなっている人。
朝から酒臭い人。
それでも、生きていかなければならない残酷さ。
底辺を見ている様でした。
休憩室は、敷地内の建物の中の二階。
休憩時間になると、決まってギャンブルの話題が飛び交い、昔良かった頃の思い出話しを何度も聞かされ、日当をパチンコですって昼飯を抜いている話や、
お金を貸しても、戻ってこない事を何度も話す人。
自転車だけが財産で、何も持たない事の強みを説く人。
日々起きる人間模様が色とりどりで、私としてはある意味、面白かったのです。
コンベアに一部ロボット導入の話しが出て、工事の為ある日突然、仕事が変わりました。
同じ工場内で、工場に入ってくるトラックの荷の確認と誘導、落とされたゴミの仕分けと、屋根がある場所や無い場所を、所狭しと、走り回っていました。
多い時は百台ぐらい入ってくるトラック。
運転手も、様々な外国の人がいて、工事長に、日本人の様におべっかを使ったり、モノを渡したりと、なぜか、当時の私には滑稽に映りましたが、
今思えば彼なりに、必死だったと思うのです。
処理出来ない、受け入れ拒否のゴミを隠してくる運転手。
言葉が通じなく携帯電話翻訳でのやり取り。
待ち時間の長さにキレる人。
積んでいるゴミが何かわかっていない運転手。
ただそんな中、私達派遣に、
「大変だなぁ!ジュースでも飲めよ」
と気を使ってくれた、ぶっきらぼうな運転手に元気をもらったのが、今でも忘れられません。
現場では、乱暴な言葉や罵声が飛び交い、時には、ケンカもありました。
どこの会社でもある、人間関係の問題に加え、社員と派遣、外国人社員と日本人社員との確執。
宙ぶらりんのまま、その中を縫って私達は働いていました。
ここでは、自分で自分を守る、すなわち助けてくれる人を探し、うまく立ち回れるかが、日々問われるのです。
そして出来なければ、また違う現場に派遣され、いつまでも底辺のままバカ扱いなのです。
空気は光があたると、キラキラするくらいの劣悪さ。
工場全体の床は、中も屋外も鉄板が張ってあり、太陽からの反射や熱を持ち、あわせて怪我防止の為、長袖長ズボンにマスクで、特に夏は耐えられない環境になります。
その為、暑さによる熱中症で、何人かは倒れ、私も苦しんだうちの一人でした。
雨もまた私達を苦しめました。
レインコートは風を通さない為、体温を上げ、冬は厚着の上に着込む為動作が鈍り、体温が下がるのです。
それでなくとも濡れると体温は容赦なく奪われます。
トラックは、ダンプタイプ(注2)ばかりでは、ありません。
例えダンプタイプでも、種類の違うゴミを一度に下ろせないので、時には荷台に登り、手降ろしをしなくてはなりません。
ダンプが出来ないトラックは、重機で降ろすのですが、一種類のゴミだけを積んで来るトラックはほとんど無く、結局手降ろしになるのです。
ガラスや釘など、鋭利な破片があちこちにゴロゴロしていて、歩いても、手で掴む時も怪我を伴います。
トラックから降ろされたそれらのゴミを、鉄板のひかれた床から種類ごとに拾って所定の場所に捨てるのです。
一日中です。
腰にかなりの負担がくるのです。
別の中間処理場の事ですが、ニュースにもなった事件。
ある従業員がコンプレッサーからの圧縮空気を肛門に入れられ死亡した時に、居合わせた同僚の派遣の人が、報道されていない、いじめがあっての起こるべきして起きた事。会社に不利になる証言を警察にしなかった事など、痛ましい真相の話しを聞かせてくれました。
冗談混じりに話す同僚に戸惑い、ただの労働力にすぎない私達の扱いに、気が滅入ってしまいました。
勿論得たものもあります。
私を気遣い、優しく接してくれた人。
底辺で働く人達のむき出しの喜怒哀楽や、そこから出る言葉の重さ。
身体と忍耐だけの世界。
ゴミから読める、この国の人達の豊かさと苦悩。
結局、精神を患い辞めるまでの四年間は、ある意味、貴重とも言える日々の連続であったのは確かです。
コンベアまでの階段と二階の休憩室までの階段。
どちらも21段。
登りも下りも私の足取りは、結局最後まで重いままでした。
私が見た、様々な事例は、
LEDの普及による水銀を含む大量の蛍光灯の処分の在り方(注3)への疑問。
アスベストの扱いや処理の仕方への問題。(注4)
日時の予告されてからの検査視察の有用性と有効性のお役所仕事への疑問。
最終処分の仕方への疑惑。
慢性的な人手不足。
そこから見えてくる事は、単なる処分会社だけの問題では無く、
この日本社会の抱える負の部分、
行政の有り様や、コスト優先の考え方、
消費者である私達の、意識のありようが、問われているのです。
私が勤めた会社は、何も特別な会社でもなく、
日本中に、当たり前にある会社の中の一社にすぎません。
関連して、宅配などの「配送料金無料」の裏には、矛盾に満ちた、
どうしようもないごまかしや、低賃金で長時間働く人達の上で成り立っている事。
派遣という働き方の在り様。
加えて、本気で問題に向き合い、最後まで見届ける責任を果たしていない国や行政に目を向ける事の重要性。
商品が安ければ安いほど良いという心理の見直し。
無料では無い無料の事。
そろそろ真剣に考えないと、真の意味での先進国には、成れないのです。
昨今、SDGs「Sustainable Development Goalsの略」。
持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が、取りざたされるようになりましたが、
何か買う時、
本当に必要なモノであるかどうか?
使わなくなった後、どう処分するのか?
素材は?
分解し易い組み合わせか?
という事まで考え、感心を持つ事が、ますます必要なのです。
上辺だけ、取り繕っているようにしか、私には感じられないのです。
まだまだ、本当の事を、見てきた残念な事実を書く事は出来ます。
が、その事はこれ以上私には書けませんでした。
それは、優しくしてくれた人を守りたい、彼らだけの責任では無いという、悲しい私のわがままからです。
素晴らしい未来が、子供達にきますように!
(注釈1)
失業手当をもらっている場合、ハローワーク経由で就職すると恩恵を受ける事が色々あるのですが、求人は法律によって、性別や年齢制限の記載が書いて無く、何度も無駄な時間と嫌な思いをしました。
街中で見かけるフリーペーパーの求人は、うまくヒントになる言葉や写真で、性別や年齢制限を伝えています。
例えば「20代、30代が活躍中」とか「お子様がいても安心」など。
参考までに。
(注釈2)
ダンプタイプとは、荷台を上げ下げ出来る、いわゆるダンプカーです。
効率が良い反面、複合の荷物を乗せる場合には向いていません。
また、アームロール型という、鉄の箱を載せたトラックもあり、アームロールで鉄箱を地面に下ろしたり、トラックにそのまま積み上げたり、また載せたままダンプ出来る車でもあります。
(注釈3)
蛍光灯の中には、有害物質の水銀や蛍光物が含まれており、
割れると微量ながら空気中に拡散され吸い込む危険性があり、
法に則った処分が義務付けられています。
家庭で出た場合は、各自治体の出し方を参考に、割らずに出してください。
もし割れた場合は、手で触れずホウキや、雑巾などを使い、舞い上がらないよう、袋に入れて処分して下さい。
掃除機は空気が舞い上がるのでやめましょう。
(注釈4)
現在、日本ではアスベストの使用はほぼ無い状態ですが、昭和の終わり近くまで使用され、古いビルや家の屋根などに使われていた為、解体の際に飛散するリスクが今もあり、問題になっています。
つい先日も、アスベストによる健康被害の補償に関する裁判で最高裁判所は、国と建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡しました。
やっと救済が始まったのです。
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