童話を書いてみました。もし、お子様がいらしたら、読んであげてくださいね。
昔々、ある山の麓(ふもと)の村に、三郎太という若者がおりました。
三郎太は、女房のお清(きよ)と二人仲良く暮らしておりました。
毎日、畑を耕(たがや)したり木を伐(き)ったりと、それは、それは大変な働き者でした。
それにとても心の優しい持ち主で、
「おーい三郎太、斧(おの)が錆(さび)ちまって。お前の貸してくれんかのう!」
「よお、三郎太よ、女房が寝込んじまって、代わりに畑手伝ってくれんかのう!」
そんな村人たちの頼みにも三郎太はいつも嫌な顔一つせず、手助けをしていました。
誰かが困ると、わずかばかりのお金もあげてしまうものですから、いつまでたっても貧しいままでした。
けれども優しいお清や、村人達のお陰でとても幸せに暮らしておりました。
そんなある日のこと、三郎太が山の仕事を終えて家に戻ってくると、お清が苦しそうに横になっておりました。
「どうした?」
お清は胸を押さえながら
「ここんところが、痛とうて痛とうて」そう言って荒い息をしているのです。
三郎太は慌(あわ)てて家の中に連れて行き
「隣村(となりむら)にいってお医者様をすぐ呼んでくるからのぅ」
そう言うと背負っていた薪(まき)を放り出し、飛び出して行きました。
しばらくすると三郎太が医者を背負いながら走って帰ってきました。
「お医者様、具合は、具合はどうです?」とにかく心配でなりません。
すると医者は
「心の臓(ぞう)が悪くなっておる。毎日薬を飲まさんと、治らん病(やまい)じゃ」
そして家の中をじろじろ見回してから、
「ところで言っとくが、わしはただで分けてやるほどお人好しではないからのぅ!お前、金は持っているんじゃろうな、金は!」
三郎太は下を向いたまま答えることができませんでした。
「金ができたら薬を取りに来い」そう言って家をから出て行きました。
三郎太は、慌(あわ)てて後を追い、こう言いました。
「必ず、必ず後でお金は払います。どうか薬を分けて下さいませ。お願いします」
何度も頭を下げ頼む三郎太をよそ眼に、医者は帰って行きました。
三郎太は急いで村人から、ありったけのお金を借りて医者のもとに走って
「今はこれだけのお金しかないが、後で必ず渡しますんで」
そう言って、もらった少しの薬を手に家に戻った三郎太は、女房のお清に飲ませ、ため息をつきながら悲しい顔をしておりました。
ある日、村人の一人がこう言いました。
「この前、旅人から聞いた話じゃけんども、なんでも、森の奥に大きなバケモノが住んでおってのう、そいつは、どういうわけか知らんが、心を買い取るっつう話じゃ。
そんで戻ってきたやつは、金を手に持ってたらしいんじゃが、まるで死んだように、生気(せいき)を抜(ぬ)かれてたそうじゃ。ほんとか嘘(うそ)かはわからんがのぅ」
その話が終わるやいなや三郎太は、山の中へ急いで走り出しました。
やっと、さっき聞いた目印の大きな木の麓(ふもと)までたどり着いた頃には、辺(あた)りはすっかり暗くなっておりました。
聞こえてくるのはザワザワという風の声だけ。
さすがに三郎太もだんだん恐ろしくなってきました。
そんな森の中をしばらく歩くと、ぽっかり月の光に照らされたところに出たのです。
「ここだ、ここだ!村人が言っておった場所は」
こうつぶやきながら三郎太が辺りを見回していた時、木々が大きく揺れたかと思うと、
「何をしにここに来たぁ~」
見ると毛むくじゃらの大きな体に恐ろしい顔をしたバケモノが、すぐ前に立っているではありませんか。
「オレの、オレの持っている心を買ってくれると聞いてやってきた」
三郎太は、震(ふる)えながら言いました。
「人間が来るのを、待っておったぞ。俺様は人の心を全て手に入れて人間になりたいのじゃ」
そして
「ここに来た人間どもは、二度と戻ってこん」
さらに
「お前もそうだろう?あれあれ、ブルブル震えているようだが……よし!まず、その心を買ってやるわい!」
するとどうでしょう、三郎太の口から丸い玉のようなものが出てきたのです。
そして化け物がそれをぐっと飲み込んだのでした。
飲み込んだものは『恐(おそ)れ』という心でした。
「なっ、なんだか体が震えてきたぞ」化け物は急にビクビクしながら金貨を放り投げると、森の中へと消えていきました。
こうして三郎太は女房に薬を飲ませてあげることができたのですが、心配をさせまいとバケモノの話はしませんでした。
けれども毎日薬を飲まさなければ治らない病なのです。
借りたお金も返し、とうとうお金は底をついてしまいました。
そしてある日の夜。三郎太はもう一度心を売るために、化け物のいる森の中へ入っていったのです。
『恐れ』の心がない三郎太は暗い森の中や、不気味な風の音も平気です。
「おーい!心を売りに来たぞ。出てこい! 」
しばらくすると
「おっ、お前か」
ビクビクしているのはバケモノのほうでした。
「心を売りに来てやった!買ってくれ! 」
「全部お前に売ってやる!」
バケモノは、
「よしよし買ってやるわい」
震えながらそう言った途端(とたん)、三朗太の口からまた、丸い玉のようなものが出てきました。
それは三つの玉でした。
化け物は、まず一つ飲み込むと、
「ん~これは?なんだか体が軽くなったようだぞ」
それは『喜(よろこ)び』という心でした。
続けて二つ目も飲み込みました。
すると
「お前には俺様の気持ちなど、少しも分からんじゃろう !俺様は早く、早く人間になってみたい!」
大きな体をゆすりながら、そう言いました。
それは『悲(かな)しみ』の心でした。
そしてもう一つの玉を飲み込んだとたん
「おい!まだ心が残っているだろう?!まだ人間になれないじゃねえか!」
山全体を振るわせるような、恐ろしい声でした。
そして
「お前が隠(かく)してる心を売らんと、金貨は一枚も出さんぞ!」
そう言いながら暴(あば)れ、三郎太の体を逆さに釣り上げたのです。
その三つ目に飲み込んだものは『怒(いか)り』の心でした。
三郎太は逆さになりながら、ぼんやりとバケモノを見つめて、小さな声でこう言いました。
「この心を取られると、オレは病気の女房のもとに帰れなくなってしまう」
「約束してくれ!お前が人間になったら、女房のお清に金を届けてくれ!約束を守ってくれるなら最後の心をお前にやる」
バケモノは、守る気もさらさらないのに
「よーし、望みどおりにしてやる」と。
そのとたん、逆さにされた三郎太の口から、今までにない大きな丸い玉が出てきました。
バケモノは、三郎太を放り投げると、その玉をぐっと飲みこんだのです。
するとどうでしょう、大きな毛むくじゃらのバケモノが、みるみる人間の姿に変わっていくではありませんか。
そして人間になったバケモノは、地面に両手をつき、急にボロボロ泣き出したのです。そしてぐったりしている三郎太に、
「お前は、心を全部売ってまでも女房を助けたかったのか」
その声はとても小さく優しい声でした。
すると人間になったバケモノの口から、飲み込んだ玉が次々出てきました。
しばらくして気が付いた三郎太が、辺りを見回すと、バケモノは何処(どこ)にもいませんでした。
そして沢山の金貨が置いてあったのです。
最後にバケモノが飲み込んだ心は、「愛」という心だったのです。
三郎太は急いで山を抜け、お清の元に帰り、その金貨と三郎太の看病(かんびょう)で、すっかり元気になりました。
バケモノの話を聞いたお清は、山に向かってそっと手を合わせ、何度も頭を下げました。
今日も二人は仲良く仕事に励(はげ)んでいます。
あれ以来、バケモノのうわさ話をするものは、一人もいませんでした。
そして必ず二人は、毎日バケモノがいた山の方に向かって手を合わせるのでした。
おしまい
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『とにかく早い者勝ちっ!』
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